第14章 テニスと王子様
そして最悪のタイミングで桃先輩が部室から顔を出す。
「ごめーん♪桃、俺、桃子ちゃんのこと好きになっちゃいそー」
ぺろっと舌を出して笑う菊丸先輩に桃先輩の表情が固まる。
「ああっ、ちょっとやめてくださいよ、あいつ本気でやきもち妬くからだめなんだって!」
敬語を忘れて桃子先輩が叫ぶ。
「へっへーん、桃どうする?俺と桃子ちゃん賭けて勝負するー?」
菊丸先輩がラケットを前に出し桃城先輩を挑発する。
「…俺の女に手出しといて無事でいられると思ってるんスか?」
桃先輩が悪そうに笑ったけど、たぶん相当怒ってる。
「誰が休んで良いと言った!全員コート外周してこい!10分全力だ!」
急に響いた手塚先輩の声に、皆が「はい!」と反射的に返事をして慌てて走り出す。
全力10分なんて走ったら、くたくたになりそう。
ふと顔を上げると乾先輩が嬉々としてプラコップに怪しい色の液体を注いでいた。
鮮やかな青の液体に赤い液体をブレンドして、コップの中身は紫に染まっていく。
視線を感じたのか、乾先輩がこちらへ顔を上げた。
「やぁ、夜野さん、こんにちは」
「こんにちは」
立ち上がって挨拶をすると、乾先輩は歩いてきて隣へ腰掛けた。
「試飲…する?」
「あ、えっと、うーんと、お肌に良いものなら検討しますが」
「そうか…これは疲労回復効果があるものだから、今度美肌汁も検討しよう」
「…ありがとうございます」
「乾せんぱーい!夢子に、変なも、ん、飲ませないでくださいよ!!」
リョーマくんがダッシュしているのに叫ぶ。
つい笑ってしまい、手を振るとリョーマくんの顔がすっと緊張するのが見えた。乾先輩は何かごそごそとメモをして「ではまた」と去っていった。
リョーマくんは私といて飽きないなんて言ったけど、テニス部もほんと、飽きないよなぁ。