第14章 テニスと王子様
リョーマくんの存在は私の中で、日を増す毎に大きくなっていて、最近は本を読んでいても内容が全く頭に入ってこない。
リョーマくんは今日もかっこいい。
テニス部の部室の横に設置された小さなベンチに座ってぼんやりコートを眺めていると、菊丸先輩がボールを追いかけバック転した。
すごい体幹。
「ねぇ」
突然横からひょいっと目の前に現れた見目麗しい彼氏。
驚いて後ろにのけ反ると、思っていた場所にベンチの縁はなく、私の手は体重をかけた後ろにがくんと落ちた。
「あっっぶな!!!」
気付くとリョーマくんの腕の中にいて、リョーマくんの匂いがふわりと鼻先をくすぐった。
目を開くとリョーマくんは少し怒ったような顔をしていて、「ちょっと」と言った。
「ちょっと、俺以外の男に見惚れて、勝手に驚いて怪我しそうにならないでくれる?」
私の膝の擦り傷はまだ新しく、朝会う度にリョーマくんが困ったように笑う。
「…ごめん。だって、バック転すごくて」
腕の中で近距離にある端正な顔に見惚れながら、素直に謝った。
「ふーん。俺だって、あれくらい出来るけど」
背中に回された手が熱い。
「えっそうなの?」
「こら!部活でいちゃいちゃしない!」
前方から聞こえた桃子先輩の声に反応して、リョーマくんが嫌そうな顔をした。
「あ、違うんです、私が後ろに落ちそうになって、抱きとめてくれたんです!」
慌てて言い訳をすると「ふーん」と桃子先輩がリョーマくんの真似をした。
「彼女が他の男に見惚れてたから、説教してたっス」
あ、リョーマくんの意地悪。
「違いますよ!菊丸先輩のバック転がすごくて、見てただけです!」
「そうなの?ありがとー♪」
桃子先輩の肩越しからひょっこり菊丸先輩が顔を出した。
「先輩、ヒトの彼女の視線奪わないでください」
「ちょ、ちょっとやめて、リョーマくん、恥ずかしい」
「なんだよー、おチビ、それって言いがかりだぞー」
「はいはい、菊丸先輩も惚気の合の手を打たない!」
桃子先輩が菊丸先輩の横に跳ねた髪についた葉っぱを退けながら言った。
「あ」