第13章 桜の精?
「よいしょ」
学ランを頭から被る夢子。
「リョーマくんの匂いがする」
「なっ」
顔が熱くなる。
「リョーマくん、大好き」
微笑む夢子に負けてしゃがみ込む。この笑顔、力が抜ける。強すぎ。
「リョーマくん?」
「オレも…好きだよ」
なんとか返事をして立ち上がる。
気を取り直してカーディガンに袖を通した。マフラーと同様軽い。
「すげー…」
こういうのって、手作り出来るんだ…。
「 わ、良かった、似合うよ、リョーマくん」
弾む声に視線を合わせると、オレの学ランを羽織った夢子がぴょこぴょこと跳ねた。
いちいち可愛い。
学ランを取り上げて羽織り直したけど、カーディガンは軽くてかさばらないから気にならなかった。
他人のために何かしようと思う事が、今まで少なすぎたのかもしれない。
ラケットバッグを背負い、おいで、と手を差し伸べると夢子は片方だけ手袋を脱いで、オレの手を握った。
「リョーマくん」
「うん?」
「どうして桜の噂、分かったの?」
「……カチローに聞いた」
「ああ、なるほど」
ふんふんと頷きまた微笑む。
「でも嬉しいな、私、桜の下でも1回告白してもらおーって思ってたんだ」
「ふーん」
それもカチローが気付いた、けど、言わないでおこう。
「桜の精、私の恋叶えてくれるかな」
「…オレの恋は?」
「えっ?」
「夢子が叶えてくれないの?」
驚いた表情から微笑みに変わる。くるくると変化する様子はオレにはないもので、それに惹かれたのかもしれない。
夢子が強く手を引く。突然だったからバランスを崩しそうになって慌てると、唇が重なった。
熱い。
外の空気はもうずいぶん秋から冬へ衣替えしているのに、夢子といると、ずっと熱い。
唇が離れると夢子がへにゃ、と笑った。
「叶った?」
「まーね」
手袋をしていない方の手をしっかり握ったまま歩く。
もっと、何かしてあげたい。笑顔を見ていたい。