第13章 桜の精?
今日も、オレのお姫様は勇ましい。
「今日は、何もされてない?」
この前、叩かれたところを見たときは心臓が止まったかと思った。
「何にやけてんの」
「あは、何もされてないよ」
頬に手を当てる仕草があざとい。可愛い。
「もう帰れる?」
「うん、カバンとってくる、今日私だけだから鍵もかけないと」
「ん、待ってる」
慌てるように教室に駆け込み、またダッシュで出てくる姿が必死で可笑しい。
「慌てすぎ」
笑ったけど、そこから何も言えず沈黙してしまった。
靴を履き替えたところで手を握る。よし、やってやろうじゃん。
「ん?」
「ちょっと、付き合って」
「うん?」
オレの心臓、もう少し大人しくしててくれ。
中庭の桜が見える。
うねる根に足を取られないようにゆっくり桜の下まで行くと、不思議と心が落ち着いてきた。
繋いだ手に熱が宿る。手を握ると少し冷えた夢子の手がぴくりと反応する。
「リョーマくん?」
「待って」
待ってくれ、ちゃんと言うから、夢子のお願いは全部叶えてあげたいんだ。
「うん」
あ〜…こういうの苦手なんだよね。
テニスみたいにはいかない。
「……好きです、オレと付き合って」
目を見て言うと小さな唇が「ハイ」と動いた。
思わず口付ける。他に言葉が浮かばない。好きだ。
「…リョーマくん」
「なに?」
「私、リョーマくんの瞳に映る自分を見てたの」
「え?」
顔がまた近付く。
「ほら、私の瞳の中見て。リョーマくん、映ってるでしょ?」
言われた通り覗き込む。
「ほんとだ、オレが映ってる」
「リョーマくんだけ、映ってるでしょ」
「うん」
「リョーマくんの瞳にも、私だけが映ってる」
「うん」
「それが好きで、つい覗き込んじゃうの」
表情まで分かる。吸い込まれそうな瞳の中、その中の自分と目が合っている。
「あ」
少し潤んだ瞳の中の自分が小さく揺れた。
「いま、揺れた」
揺れたのを認めてまた口付ける。
「ん」
足りない。髪に触れ、身体を抱きしめる。何度もキスをする。
甘い、香水の香りに脳が痺れるような感覚に襲われる。言い表せない感情が胸を締め付ける。
苦しい?悲しい…?
そうだ、切ないってやつ。