第13章 桜の精?
「何してんの」
「えっ」
「喧嘩でもしてたの?」
「ううん、してないよ、あの人たちは、テニス部のファン?かな?」
「ふーん」
「リョーマくん、本当に人気なんだね」
「別に。あの人たち、知らないし」
「そっか」
「今日は、何もされてない?」
そんな心配そうな顔してくれるなんて、嬉しいな。
「何にやけてんの」
「あは、何もされてないよ」
頬に手を当てて顔の緩みを確認して正す。
笑いかけるとリョーマくんの頬が少し赤くなった。
「もう帰れる?」
「うん、カバンとってくる、今日私だけだから鍵もかけないと」
「ん、待ってる」
部室に駆け込みカーディガンをバッグに詰め込み部室を飛び出すとリョーマくんが笑う。
「慌てすぎ」
鍵をかけたところで顧問が来たので鍵を託した。
リョーマくんが心なしか無口…?
何か言おうとしている。
「ん?」
スニーカーを履いたところで手を引かれた。
「ちょっと、付き合って」
「うん?」
校門と反対側にずんずん歩いていく。
あ、中庭…
桜の木は大きく、根がでこぼこしていて、座り込んで本を読むのに良さそう。暖かければ。
繋いだ手が熱くなり、きゅ、と力が込められた。
リョーマくんの顔を見ると、いつか見たあの緊張した顔だった。
「リョーマくん?」
「待って」
何か考えている顔。
「うん」
「あ〜…こういうの苦手なんだよね」
ブツブツ言いながら、なんだか困った顔。
「……好きです、オレと付き合って」
「…ハイ」
リョーマくんの瞳に私が映っている。それが見えるくらい近くにある顔。
どちらともなくキスをする。
「…リョーマくん」
「なに?」
「私、リョーマくんの瞳に映る自分を見てたの」
「え?」
もう一度近付く。
「ほら、私の瞳の中見て。リョーマくん、映ってるでしょ?」
リョーマくんが私の瞳を覗き込む。
「ほんとだ、オレが映ってる」
「リョーマくんだけ、映ってるでしょ」
「うん」
「リョーマくんの瞳にも、私だけが映ってる」
「うん」
「それが好きで、つい覗き込んじゃうの」
リョーマくんはまだ私の瞳を覗き込む。
「あ」
小さい声。
「いま、揺れた」
キスが落ちる。
「ん」
頭を支えられてなんどもキスをする。
抱きしめられて胸が痛む。
好き。