第13章 桜の精?
なんとなくカチローに聞かれるがまま、夢子との馴れ初めを話してしまった。
少し後悔しながらも、カチローがあまりに褒めるから、夢子を誇らしく思った。
「カチローは、好きな子いるの?」
「えっ」
カチローの顔が赤くなっていく。いるんだ。
「僕のは、憧れ的な感じだから、好きとかとは違う気がする」
困ったように笑っているカチローはいつもより大人っぽく見えて、やっぱ堀尾に聞かなくて良かった、と改めて思った。
「そっか」
「あ!リョーマくんいま興味ないのに聞いたでしょ!」
「ふっ」
そんなこともないけどね。
「もー!リョーマくんひどいよー」
あははと笑うカチローはさっきの表情の影はなく、いつものように見えた。
夢子もこんな風にオレのことを話すことがあるんだろうか。
胸のあたりが痛む。
ボールを追いかけている間は何ともないのに、ふとした瞬間に胸がきゅ、と痛む。
アップではカチローの相手をして、またテニスに集中する。
部長の姿が目に入って、また夢子の顔がよぎった。
くるくる変わる表情、ふわふわした見た目なのに強い夢子。
オレの目をじっと見つめて、少し潤んだ瞳が最高に可愛い…けど、こんなことを部活中に考えるなんて病気だ。
恋が病なんて誰が言い出したのか知らないけど、これは病気だと思う。
部長がどこかを見ている。あの顔…
視線の先を辿ると二階から部長の彼女がひらひらと手を振っていた。
部長は小さく頷いて、慌てたように走り出す。
校庭5周かな。