第12章 それでも彼女
「私の方がっ私の方が越前くんのことを好きだと思います」
顔を真っ赤にして大きな声で私に向かうショートヘアさん。名乗ってくれないから名前も分からない。
黙っていると彼女は真っ赤な顔のまま「だから、私の方が、越前くんにふさわしいと思います」と言った。
「はぁ…」
気の抜けた返事を繰り返すと癇に障ったようで、彼女は私の目の前まで詰め寄った。
「私の方が…
「だったらそれ、リョーマくんに言ったら良いんじゃないですか?」
被せて言うと、ショートヘアさんがビクッと肩を揺らした。
長身の子が庇うように「そんな風に言わなくても…」と小さく呟く。
「だって、私よりふさわしいと思うなら、それはリョーマくんに言うべきことなんじゃないかな」
「ちょっと、彼女だからってそこまで言わなくても…」
「彼女だからです」
背の高い女の子の目を見て言うと、ショートヘアさんがポロポロと泣き出した。
「泣くほど好きなら、やっぱり直接告白したら?」
泣かれても、リョーマくんは譲れないけど。
ショートヘアさんが踏み出して思い切り振りかぶった。平手なんて怖くないし、それで気が済むなら好きにしたら良い。
目を瞑ると思ったより強くないビンタが私の頬に当たった。ぱちん、と乾いた音がする。
何も言わないでいると、ショートヘアさんは怒りに満ちた顔で私を見ていた。
「ねぇ、部室の横で何してんの」
聞き慣れた声に視線を移すとリョーマくんがこちらを睨むように見ていた。
「越前…くん…」
泣き出して赤い顔をしたショートヘアさんが絶望したような顔になる。
「リョーマくん」
ホッとして名前を呼ぶと、リョーマくんが驚いた顔で私に走り寄った。
そっと頬に手を添えられる。
「叩かれたの?」
ショートヘアさんを睨むリョーマくん。
「あ、私が殴られるような言い方したから、仕方ない、か、も」
私に再び振り返ったリョーマくんがあまりにも切なそうな表情で、言葉に詰まってしまった。
リョーマくんはもう一度ショートヘアさんに向き直ると、静かに「アンタに興味ないって、言ったと思うけど」と言った。
ああ、リョーマくん、断るセリフが正直過ぎるよ。
でも、既に告白してたのね。