第12章 それでも彼女
「桃センパーイ、今日夢子、女子からも告白されてたんスよー」
「は!?すげーなおい」
「違いますよっもう、リョーマくんやめてよ!」
桃子先輩がクスクス笑う。
「そうなの?」
「違いますよ…女の子から呼び出されたのは本当ですけど、整形したんだろ、病院教えろって言われただけです」
「ええっ整形してるの?」
「してません!」
あはは、冗談だって〜と桃子先輩が私の髪を撫でる。
「もう」
リョーマくんはただ笑っている。
その笑顔を見るだけで何もかもどうでも良くなってしまう。
今まで悩んでた事がどんどん小さくなる。どこまでも夢中になってしまいそうで、少しこわい。
片付けをする桃子先輩を少し手伝おうと手を伸ばすと、これは私の仕事だから、と断られてしまった。
やっぱりテニス部員ではない人間があれこれ手伝うと、ファンの子達が色々手を出したがるから気をつけているそうだ。
私は大人しくベンチにかけて、文庫を開いた。指先が出せる手袋は本を読めるから便利だ。
白くてふわふわした手袋は、リョーマくんからの初めての贈り物。
手袋を見るだけでうっとりしてしまう。
小説に意識を移すけど、最近本の内容が頭に入らない。集中力不足かな。勉強するときは平気なのに、物語が上手く読み取れない。
ふぅ、とため息にも似た息を吐いて顔を上げると女の子が2人、私の前に立っていた。
驚いて言葉が出ないでいると、怒ったような表情の背の高い女の子が、隣のおとなしそうなショートヘアの女の子を庇うようにずいっと前に出た。
「あなた、越前くんと付き合ってるって、本当?」
あ、そういうことか。クラス章を見ると同じ1年生だ。
「うん、本当だよ」
立ち上がり目を見て答えると、彼女は私を見つめ返した。
黙っているので間が出来てしまい、首をかしげると後ろに怯えるようにいたショートヘアさんが今度は前に出てきた。
「いつから、ですか?」
「1ヶ月前からです」
つられて敬語で答えると、ショートヘアさんはキッと目に力を入れてこちらを見た。
「いつから越前くんのことを好きだったんですか?」
「え?1ヶ月前からです」
「私は、入学した時から好きだったんです!」
「はぁ…」
間の抜けた質問のせいで、間の抜けた返事が出てしまった。