第11章 私
「離して」
できるだけ冷静に言う。
「君が付き合ってくれるなら、離すけど」
「いや、だから私彼氏いるんで」
扉に向かって視線を投げると、リョーマくんが無表情で、というより表情を失くして歩いてきた。
リョーマくんの姿に安心してそちらに微笑むと、リョーマくんも少し笑った。
「ほら、彼氏が心配するから、離して」
「越前と付き合ってんの!?」
つい頬が緩む。
「うん」
「俺の方が、似合うんじゃない?」
ああ、限界だ。髪が逆立つような感覚に、自分が怒っていることが分かる。
身体の向きを変え、掴まれた手を捻り、体制を崩したところに足を引っ掛け尻餅をつかせた。
「バカなの?頭空っぽ男。次私に話しかけたら、わいせつ罪で訴えるから。えーと、名前、何だっけ?まぁ、いいや。君はリョーマくんの髪の毛1本より魅力ない」
言い捨ててリョーマくんに向き直ると、リョーマくんがバカ男に視線を向けていた。
もう一度バカを振り返ると、何をされたのか分からなかったのかぽかんと尻餅をついたままの態勢でいた。
「アンタさ、人の彼女にしつこく付きまとわないでね」
にっと笑ってリョーマくんが言うと、名前を忘れてしまった彼はやっと顔を真っ赤にして立ち上がった。
恥ずかしさではなく怒りのようだ。
リョーマくんが身構えるのを見て、手のひらで静止する。リョーマくんににっこり笑ってみせると、リョーマくんは少し困ったような顔をした。
ごめんね。沸点の低い彼女で。
私が小柄で良かった。
背の高い馬鹿男に近付くと、尻餅をつかされたくせにまだ油断しているのか、少し緩んだ顔をした。きも。
真っ正面から脛に蹴りを入れて、間髪開けずに膝の後ろの柔らかいところを蹴り飛ばした。
いって、と言って膝を着くと、目の前に降りてきた顔に平手を投げた。
パーンと気持ちの良い音がする。
「じゃあ、もう2度と話しかけないでね」
もう一度念を押して、リョーマくんの手を取って屋上を後にした。
屋上の重い扉を押して校舎内に戻ると、リョーマくんは噴き出してしまった。
「そんなに笑わなくても……」
「ごめん、もうちょっと」
そう言って爆笑するリョーマくんにつられて私まで笑ってしまう。だって、頭にきたんだもん。仕方ないじゃん。
第二図書室まで手を繋いで行って、周りを確認して入るとすぐに内鍵を閉めた。