第11章 私
昼休みに屋上へ上がると、みんなが座り込んで昼ごはんを食べる中、1人だけフェンス越しに立ち景色を見ている背の高い男の子がいた。
どっかで見たことあるような。
同じ学年だと思うけど、分からない。
振り返って私を認めると手招きをした。会釈して近付くと、彼は自分の名前を名乗った。
「ごめん、クラスが遠いから、知らないよね」と前置きをして。
「はぁ」と気の抜けた返事が出てしまう。
「俺、君のこと全然知らなかったんだけど、昨日初めて見かけて…」
言葉に詰まる。
初めてじゃないと思う。眼鏡をした私は眼中に入らなかっただけでしょ?
「夜野さんのこと、すごく気になって、居ても立っても居られなかったんだ。急に呼び出してごめんね。あ、俺バスケ部なんだ。夜野さんは?文化部?運動部っぽくないよね」
緊張しているのか、もともとそういう性格なのか、饒舌な男の子だ。
背が高くて首が疲れる。
「あの、それで、俺、どうかな?」
はにかむ表情は爽やかで、顔の造りも悪くない。きっと大多数の女の子は悪い気はしないだろう。
「どうって…」言われましても。
「あ、いや、俺と付き合ってくれないかな」
最初っからそう言えば良いのに。まわりくどい。
「ごめんなさい、私いま付き合っている男の子がいるの」
即答すると、彼はにっこりした。
なんで?
「そうなんだ。夜野さんさえ良ければ、俺にしない?」
「え?」
右手を取られた。反射的に振りほどくと、彼は意外そうな顔をした。あ、もう名前忘れた。
「俺、きっと君のこと、大事にするよ?」
「ごめん、私彼氏のこと好きだから」
間髪入れずに答える。また意外そうな顔をされる。
「へぇ、夜野さんって一途なんだ」
なんか、感じ悪い。別に良いじゃん。
「髪、綺麗だね」
触られそうになってまた手を払った。
「あ、髪触られるの嫌いだった?」
「ハイ」
何なのこいつ。
「じゃあ、さようなら」
踵を返すとた手を掴まれた。
振り返ると、少し怒ったような顔で彼はこちらを見ている。
「俺、こんな風にフラれんの初めて」
「はぁ…」
だから?と言おうとしたら「だから、俺と付き合ってよ」
罰ゲームか何か?落とせるか賭けてるとか?
「君くらい可愛い子が隣にいてくれたら、嬉しいんだけど」