第1章 クラスメイト
越前くんは何か言いたげに私も見ている。
さっきみたいに、言葉を選んでいるように見えた。
沈黙に耐えかね私から口を開いた。
「越前くんも、散歩?」
少し冗談めかして聞く。
「いや」
また沈黙。
そして不機嫌そうな越前くん。
「どいて」
「えっ?」
「ファンタ買うから」
「ああっうん、ごめんね、気付かなかった。」
自販機の前なのだから、飲み物を買いに来たに決まってるのに、私ったら自販機の前でボケっと突っ立って、さぞかし邪魔だっただろう。
うう…さっきの幸せな記憶に、怒った越前くんの顔が上書きされてしまう。
「夜野」
越前くんの声、好きだなぁ。
「ねぇ、夜野」
優しい声だよなぁ…。
「夜野」
突然ぎゅっと後ろから抱きしめられ、思考が停止する。
「えっ?」
背中の暖かさに胸がきゅんと締め付けられる。
「越前くん…?」
恐る恐る後ろを確認すると、越前くんの顔がすぐ隣にあった。
近い。
今日何度も感じた、顔に血がのぼる感覚。きっと今が1番赤い。
「なんで無視すんの」
口を尖らせ不満げに越前くんが言った。
「あ、いや、無視?ごめん、ええと、呼んでた?」
「うん、3回呼んだ」
「あれ?ほんと?なんか、ごめん、怒らせ…ちゃった?みたいで、なんでかなって、考えてて…」
「誰を」
「…越前くんを」
だって怒ってたじゃん。不満げだったじゃん。
困惑しながら答えた私を見て、越前くんは私を手放し吹き出した。
授業中なのを意識してか、笑い声は抑えていたが、どう見ても爆笑していた。そして、ウケる、と呟きながら息を整え、私に笑いかけてくれた。
「怒ってないよ、怒らせてもない。1人でふらっと教室出てったから、心配しただけ。」
越前くんが私の手を引く。
自販機前まで連れてって、小銭を入れる。
「どうぞ」
「えっファンタは?」
「もう買った」
「そっか、えっ?いいの?」
「だから、どうぞって」
越前くんはもう一度クスリと笑って自販機を示した。
「ありがとう」
メロンソーダのボタンを押す。
「うわ、よくそんな甘いの飲めるね」
「…ファンタに言われたくないよ」
顔を見合わせてクスクスと笑い合う。
さっきと同じ、幸せな気持ち。
「飲んでから戻ろう」
「うん」