第10章 プレゼント
「私、今まであんまり編み物もかしたことなかったから、もしかしたら気になるところがあるかもしれないけど…織江先輩に教えてもらったから、出来はまあまあなの…」
小さく言い訳しながら、自転車を支えるリョーマくんの首にグレーのマフラーをそっと巻いた。
リョーマくんの表情は、驚いたままだった。
マフラーの先を手にしてリョーマくんがやっと口を開く。
「すげぇ」
「す、すごくないよ。私が作ったものだし…でも毛糸はちょっと肌触りにこだわったつもり…」
言っているうちに、やっぱり手編みだということに照れてきて、言葉が小さくなってしまう。
「うん、チクチクしないし、軽くて良い」
マフラーに顔を寄せるリョーマくんが、もうなんか、本当にかっこいい。
「似合ってる…」
太いもこもことした毛糸で編んだグレーのマフラーは中学生には少し渋いかと思ったけれど、リョーマくんのかっこよさを邪魔してなくて、似合っていた。
暖かい手元に嬉しくて、ふふ、と笑うとリョーマくんがもう一度キスをしてくれた。
「ありがと、オレ、これ大事にするから」
「えへへ…よかった、でも来年も挑戦するから、ボロくなっても大丈夫だから」
「ん、分かった」
微笑むリョーマくんに見惚れながら「私も、ずっと大事にするよ、これ」と手袋をそっと顔に寄せた。
頬にふわりと白いミトンの感触が気持ち良い。
「気に入った?」
「うん、リョーマくん、大好き」
「…オレも」
小さく微笑む表情が、本当にかっこいい。
「オレも、好きだよ」
好きの言葉に、顔が勝手に笑顔になる。
髪を撫でられ、唇のあと、毛先に触れられ、髪にもキスするリョーマくん。
大好き。
アパートに着くと大きな車が停まっていた。あ、お父さんの車だ。
「お父さんだ」
「え」
リョーマくんが目を開く。
「遊びに来てるんだと思う、会社が遠いから別々に住んでるの」
この小さなアパートに家族全員は住めない。時折お兄ちゃんとお父さんが来るけれど、基本はお母さんと2人だ。
「家庭、複雑?」
リョーマくんの心配そうな顔に、笑顔で否定する。
「ううん、円満だよ!複雑だったのは私の小学生時代だけ」
「そっか」
握っていた手を引き寄せられ、腕の中に収まるとリョーマくんの匂いがした。
「甘い」
リョーマくんが呟く。