第112章 薬指
「光忠、ありがとう……」
私は嬉しくて感極まって泣いてしまった
まさかペアリングを薬指に付けてくれるとは思わず、私の人生の中でそんなことがあるなんて思いもしなかった
「一生こういうことが無いまま死んでいくんだって思ってたの。数年前の自分には考えられなかった…」
「これからたくさん思い出を作って、過去を塗り替えていこう。君は僕からしたらまだまだ子供だから」
そういう光忠に笑ってしまった
そっか彼は何百年って時を過ごしているんだ
見た目は同世代くらいなのに言う事の重みもあって不思議だなと思ってしまう
「そういえば山姥切くん…長義くんの方が君のこと心配してたけど、仲良くなったの?」
「あー……昨日お酒飲んで、談笑して仲良くなった感じなんだよね。なんて言うか、長義はいとこのお兄ちゃんみたいな感じがする」
「ふふ、なにそれ想像もつかないな…同じ長船の仲間ではあるけど彼、僕のことを祖って呼ぶからなんか舎弟みたいだなって思っちゃうんだよね。あ、このことは内緒ね」
私はどこぞの組ですかとツッコミたかったけどやめておいた
「祖って呼ばれてるんだ…初めて知った…」
「2人の時だけだからね……あのさ、さっきまで何を話してたか教えてくれるかな」
彼の目は私を射抜くように見つめる
さっき話していたことを正直に話すと私を抱きしめてきた
「…僕は君を幸せにしたかった……」
「天涯孤独みたいな私と一緒にいてくれる存在が居れば私は幸せだよ」
「……本当にそう思ってる?嘘ついてない?」
「嘘じゃない。だって、向こうの世界にいた時疲れ果ててた人間がそんな贅沢なこと考えるって思う?」
その答えに彼は黙ったままだった
私も同じことを言われたら返答に困って黙るだろう
「ごめんね、変なこと言って。疲れちゃったから、少し寝たいな…」
「…分かった。お昼は食べるよね?」
「ううん、いらない。なんか胃が重くて、食べれないから、いいや」
「そっか、分かった。じゃあ、ゆっくり休んでね。君のタイミングでいいから」
彼はそう残し部屋から出た
自分の薬指を見つめて嬉しくて笑みがこぼれる
布団に入り直し、ゆっくり目を閉じた