第88章 射抜く目
「怖いか?」
少し間を置いて三日月さんがそう言った
「………それとも、不愉快だと俺達が思ってるからか?」
「…………記憶が無い、私なんて、嫌ですよね」
「何を言っておる。嫌なわけなかろう……思っていることを全部吐け」
顎を持たれ目を合わせられる
その目に吸い込まれそうで勝手に口は動いていた
「辛いことの、ここに来る前の、辛い記憶だけ、戻りました。皆、私を、必要としてない、死のうとした時の、記憶を」
その言葉に三日月は目を見開く
そしてぎゅっと力一杯に抱きしめられた
「少しでも記憶が戻ったら話せと、言っただろう。俺達は佳奈の事が大切なんだ。必要ないとかどうでもいいなんぞ、思っておらぬ。1人で抱え込むな、頼れと言っただろう。頼れ。1人になるな」
三日月さんの声は優しくて、私の目からは涙が出てくる
「みんなに、嫌われてると、心の中では、いらないと、わたしは、思って、っ燭台切さんに、今の私、嫌いって言われて、どうしたら、いいか、わかんなくてっ」
「心は読めぬだろう?燭台切は、主に自分の気持ちをぶつけただけじゃ困惑するのに、頭に血が上って言ってしまったそうだ。冷静になったら、自分が怖くなったと言っていて、自分を折れと髭切に言ったそうだ」
頭に血が上ると、思ってもないことを言ってしまうことはわかる
私だってそうだから
でも凄く深く傷ついた
辛かった
苦しかった
なのに三日月さんは全て見抜いているようだ
「屋敷へ帰ろう。蛍丸達が主と一緒にご飯を食べたがっていた。主が育てた俺達だ。主は主のペースでやればいい。俺が着いてるからな。困ったらなんでも言え」
三日月さんはそう言うと立ち上がり私の腕を掴んで立ち上がらせ、包み込むように腰に手を回してゆっくりと歩き始めた