第21章 失敗と本能
帰り道の途中で、思わず小さくアッと叫んでしまった。
10代後半で捜査官になってから一週間前まで、毎日持ち帰るクインケの数は一つだったから。
『やってしまった…バカだ…タカナミの方忘れてくるなんて…。』
CCGを出てくる時にわざわざクインケを持って"これが着るクインケか"なんて思ったというのに。
長年の習慣とは恐ろしいものだ。
お願いだから何事もなく帰りたい。
どんなに素晴らしいクインケでも使えないなら意味はない。
今の私は殆ど丸腰だ。
まあ帰宅途中に喰種に遭遇とかまずありえないけどね。
そう言い聞かせて早足で歩いたのに。
こんな日に限って。
血の匂いがした。慣れ親しんだ匂いだ。
その方向にゆっくり首を向ける。
高架の下からだ。
いや、もうきっと死んでるだろう。
見過ごそう。
明日朝一でブジンでも連れて見に行こう。
そう思って走り出そうとしたのに。
悲鳴が聞こえてきた。
見捨てられなかった。
部下が同じことをしたら叱るかもしれない。
けど本能に抗えなかった。
倉元に電話するも繋がらない。
あいつデスクで寝てるかも。
ブジンや道端たちに電話しても繋がらない。
手が震える。こんなところでグズグズしてたら間違いなくさっきの悲鳴を上げた人は死んでしまう。
っていうか私がいるのは2区じゃないのか?なぜ喰種がいる?
タケさんか、それかアキラちゃん、ハイセくん、有馬さん…まさかそんな人たちに手を借りるなんて…そもそも私がクインケ忘れてきたせいで…。
そうだ、瓜江くんだ!
瓜江くんにコールしながら高架の下へと走りこむ。
2コールで電話が繋がった。
『瓜江くん!!』
「蘭乃一等?」
『今すぐきて、ちょっとまずい状況なの。他にも誰か連れて、2区の4丁目のオレンジ色の高架の下!』
「行きます。」
鋭い返答とともに電話が切れる。
それと同時に高架の下についた。
そこに広がる光景に、私は思わず天を仰いだ。
捕食されそうになっているのは子供だった。