第20章 新しいクインケ
囮捜査の日から一週間、本格的に伊東班が動き出した。
副班長を誰にするかでモメたんだけど、モメタた理由はただただ倉元が私を副班長に任命する責任に潰されていただけで。
タケさんの呆れた顔に吹っ切れたらしく、今では楽しそうに私を引き連れて歩いている。
あの日の告白のことは、なかったことのようになってしまったけど、私はちゃんと覚えている。
それから、ついに私の折れたブレストの代わりができたとアキラちゃんがすごくニヤニヤしながら教えてくれた。
そんなアキラちゃんの顔は私の不安を煽る顔でしかなかったけど。
お昼になって問題のクインケを取りに向かう。
そこにはアキラちゃんと、それからなぜか有馬さん。
「ユウ、正直に言う。このクインケはまだ試作段階だ。」
『マジですか。』
だからニヤニヤしてたのか。
この人は私を実験台にしようというのだ。
「まずこれを。」
まず?
アキラちゃんが指し示したのは普通の銀色のアタッシュケース。
「これはBレートの尾赫だ。」
尾赫、しかも普通のレートの低いクインケだ。
初めてクインケを持たされる人が持つようなもの。
「そしてこれが問題のクインケだが…羽赫だ。」
有馬さんが差し出してきたのは黒のアタッシュケース。
「試作品だがSレートの羽赫で…ユウは黒巌特等のクインケは知っているな?」
『知ってるよ。着るクインケでしょ?』
梟討伐戦でも活躍したらしい。
でも確か着ている彼らを食べたんだっけ。
「それだ。」
『うん?えっ?!』
まさか、試作段階って。
じゃあこれは初めての"羽赫の着るクインケ"ってことか。
「僕が倒した喰種から取った赫包で作ったクインケだ。仕留めた時にユウのものにすればいいと思ったんだ。」
そこに有馬さんが絡んでいたのか。
『羽赫を着るってことは…と、飛ぶの?!』
「ありえるな。恐らくそうなるだろう。」
「名前はどうする?僕の名前でいいよ?」
私はクインケに元になった喰種の名前を付けるのは好きじゃない。
『使ってみてから決めようかな。』
有馬さんの名前はちょっとヤバい気がするから却下だけど。
取り敢えずその日はクインケを二つ持って帰ることにした。