第13章 琲世先生の触れ合い講座
『感情移入?』
「そう、いい?」
琲世くんが人差し指を立てる。
「倉元くんと心から新婚夫婦になりきってやらなきゃ。倉元くんはユウさんのこと愛してる。ユウさんも倉元くんのことを愛している。」
お、おお。
『倉元と愛し合わなきゃいけない…。』
「そうそう。ユウさん、好きで好きで仕方がないって感情になったことある?まあ僕も覚えてる限りではないんだけど。」
『…ない。』
あー、それだ!と琲世くんがギュッと目を瞑る。
琲世くん、女の子みたい。女子力高い匂いがする。
「サッサンとやってみたらいいんじゃね。」
『はぁ?』
「お、いいね!やってみよう!」
不知くんの案を却下しようとしたら何のスイッチが入ったのか、使命感に燃えた瞳で琲世くんが私を見た。
「ユウさん隣に来て。不知くんと場所交代ね。」
言われた通りに琲世くんの隣に座る。
「いい?僕はユウさんを愛している。ユウさんは僕を愛している。」
『は、琲世くんが私を愛してる?』
「そう。」
『だって、え、はい。』
有無を言わさない琲世くんの顔に私は大人しくなる。
琲世くんは静かに私の手を取った。
いつの間にか顔は至近距離にあって、優しく微笑んだ琲世くんの目を見る。
「僕のこと好きになって下さい、ほら。」
え、という声も出ない。
「微笑んで見せて?」
口の端がひくりとあがる。
「目が怖いんだけど。」
琲世くんが思わず吹き出す。
『ちょ、ちょっと笑わないでよ…。』
「ユウさん思ってより下手っスね。」
不知くんも呆れたように笑ってる。
「緊張してるから?冷めてるの?」
『わかんない。』
「わかった正面向いて。両手出して。」
こうなったらもうカウンセラーのようだ。平子班に入る前もカウンセリングに何回か行ったなぁ。
「はい、力抜いて〜微笑んで〜。」
ニッコニコしてる琲世くん。
『んふふ。』
「いいね〜。」
「ねえちょっと、何してんの…?」
お互いに集中しすぎて周りが見えていなかった。
話しかけられてバッと顔を上げるとそこには唖然とした倉元。
「いちゃいちゃする練習です。」
琲世くんがなぜかドヤ顔だった。
新しい特技を人に自慢する子どものような顔だった。