第11章 作戦開始1日目
どこまでいっても自分は自分だ。
また可愛らしい服装に着替えて私は6時にCCGを出た。
丈さんはすでにCCGを出て駅に着いた頃だ。
耳にさしたイヤホンはもちろん音楽を聞くためのものではなく丈さんの声を拾うもの。
こちらから丈さんに何かを伝えることは出来ない。
電車に乗っていつもとは全然違う場所に帰る。
丈さんはもう駅に着いたかな。
CCG最寄駅から目的地までは10駅だ。
駅に着いて改札をくぐり、駅前の変な像の下まで来たところで丈さんを発見した。
気づかないふりをする。
足早に帰宅していくたくさんの人たちを見ながら、私はその像にもたれかかってただ倉元を待つ。
この周辺は住宅街ばかりだしそれほど大きな駅でもないんだけど人は多いなぁ。
この中から喰種は私たちを選んでくれるだろうか。
そもそもあの喰種が突然全然違う駅に目をつけたら作戦はまるで失敗なんだけど。
もちろん闇雲にこの駅を選んだわけじゃなくて、ちゃんと被害者の使っていた駅の中で一番多かったところを選んだのだ。
この間の金曜日の捕食場所は隣の駅だったからこそ、次はこっちな可能性もあるし。
目の前のガラス戸に映った自分を見る。
カラフルで女の子らしい姿の私の向こうに可愛らしい雑貨が透けて見える。
どうしてこっちじゃないのだろう。
あぁ嫌だ、まるで自分を見つけられない少女のようで、これこそ不相応。
バックの中の携帯が震える。
「もしもし!」
『もしもし?』
「もうちょっと待って、もうすぐ着くから。」
『え、うん?待ってるよ?』
「ありがとう!」
プツリと切れる携帯。
なにいまの。
何の連絡なの倉元のやつ。
これも囮捜査の一環…だよね。
それから10分ほどで倉元が来た。
私を見つけて小走りで向かってくる。
「ごめん遅くなって!」
全員の到着時刻を数十分ずつズラすのは元々の作戦。
「帰ろう、ほら。」
倉元が手を差し出した。
その手を見つめる私。
なにこの手。
「繋いでくれないの?」
『え?あ、なるほど。』
本気で分からなかった。
ぎこちなくその手を握ると、意外と肉質のあるあたたかな力が返ってくる。
「ユウしっかり。」
倉元が耳元で小声で囁いた。
ごめん、声を出さずに口の形だけ作っておく。