第10章 平子の回想
「ユウ疲れてるのか?」
『有馬さんにいじめられました。』
どうしてこんなに有馬さんに目をかけられているのだろう。
丈さんしかいない部屋に戻ってきて自分の机にどかっと座る。
「強くなりそうなのに惜しいからだろう。」
惜しいから?
どういうこと?
「何か足りていないからだ。」
『なにか、足りていない…。』
私に足りないものってなんだろう。
ありすぎて分からない。
自分が女であることのおかげで人と比べて足りないものが多すぎる。
デスクに頬をつけたまま丈さんをぼんやり見つめる。
足りないもの。
あの有馬さんがわざわざ私を探して見つけ出していつも何かを確かめていくような目をして、彼は私に何を見て欲しいんだろう。
丈さんの顔が霞む。
「寝ていいぞ。仮眠室に行かないのか?」
丈さんは優しい。
大好きだ。
置いて行かないでほしい。
私と倉元を、みんなを。
置いて行かないでほしい。