第7章 抱擁の習慣
あれを始めたのはいつだったか。
記憶の中で、興奮状態から抜け出せないでそわそわキョロキョロしている私の手を握ったのはまだ若い倉元だった。
あれはアカデミーを卒業してすぐの頃。
まだ子どもだった。
あれから二人は別々のところで経験を重ね、喪失感も絶望感も恐怖感も乗り越えてまた巡り合ったはずなのに。
『慣れることと慣れないことってあるよ。』
六月くんが頷いた。
『私も倉元も中身はほんと普通の人間だから。』
倉元と抱き合う時、心は子供のようなのだ。
戦いの後は純粋な心を求め合いたくなる。
だから囮捜査は初めての大人の男女としての触れ合い。
当たり前のことだけど。
「なんだかユウさんもくらもっさんも年上って感じがしないよね。」
『琲世くん私にタメ口だしね。』
「だ、だってユウさんが…それに年下感あるし…。」
『ふふふ、全然いいよ。』
「今日送ってくよ。」
『いいの?』
「うん、送らせて?」
「ママンとねえさんのドライブデートうらやま。」
その日の夜、"蛇面"による新たな被害が入ったと連絡が入ったのは琲世くんに車で送ってもらった一時間後のことだった。
二人が死んだらしい。