第2章 平和の都へ
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北東は鬼門に位置する場所
この京は四神に護られし霊地
そして、四神を統べる存在が龍神…応龍
ーー龍神の加護……千年の都……ーー
「…頼久はまだでしょうか?」
あれから数分しか経っていないはずなのに、ひどく長く感じる。
少女…名を藤原家の姫、藤という。
藤姫は不安が募るばかりで、涙を浮かべていた。
そんな時、遠くから足音が聞こえた。
(……頼久でしょうか?)
ギュッと胸元を握り、足音に耳をすます。
「(……一つ…二つ……頼久だけではない?他の者と一緒なのでしょうか?)」
冷や汗が頬を伝う。
暗闇と一人という空間に、藤姫はとうとうふるえだした。
(…………母(かあ)様!!)
三つの足音である頼久、沙霧、風早は藤姫の部屋のそばで止まり、頼久が「呼んだら出てきて下さい」と振り返り言う。
沙霧と風早は頷くと、頼久は部屋の入り口付近で片膝をつき頭をさげる。
藤姫は御簾の向こうに鎮座していた。
「…藤姫様、失礼致します。遅くなり申し訳ございません。源 頼久…只今戻りました」
「……頼久?」
「…はい。藤姫様、長くお一人にさせて申し訳ございませんでした」
ゆるゆると袂から覗く不安げな瞳に、御簾越しで見えないが頼久は後悔した。
早く戻れば良かったと…。
「藤姫様、音が聞こえたと仰る部屋にて、見慣れぬ者達が居りました故、連れて参りました」
「見慣れぬ者達?(その方々の足音だったのでしょうか……)」
「よろしいでしょうか?」
藤姫は目元を拭くと頷いた。
「わかりました。お通し下さい…」
「畏まりました」
頼久はまた頭を下げると、部屋のそばにいる沙霧と風早を呼ぶ。
「入れっ」
「……失礼します」
「失礼致します」