第2章 平和の都へ
空は変わらずの十六夜。
紫紺の空に静かに雲が流れる。
「…今、星が…」
大きな建物の部屋に、綺麗な顔立ちの少女のような少年が、龍笛を手に空を見ていた。
「何かの予兆でしょうか…」
(あの方角は…、北東?北東は確か、安倍晴明殿の御屋敷が……)
無意識に龍笛を強く握り、吹き始める。
――流るるは、静かな水のよう。
――感ずるは、神々しい気。
「(……私(わたくし)は、どうしていつも……)」
怖ろしくはないはずなのに、恐ろしい。
静かな音色が内裏に響く。
清流のようにしなやかに。
少年は夜明け前の空をまた、仰いだ。
憂おう瞳を揺らしながら……。
+++
それが少し前の別の場所での出来事。
そして、その北東に位置する場所には、沙霧と風早が落ちた、土御門の屋敷があった。
「く…っ!いい加減にぃっ!」
「困ったなぁ…。あの、話聞いてもらえないですか?」
「なにを!鬼と話すことなど、何もっ!」
「鬼?」
一度風早から離れた頼久は、数歩下がり強く踏み込み再度斬りかかる。
風早はどこかで聞いた、“鬼”という単語を呟く。
「あ…風早!……っ…やめて!」
沙霧は風早の背後から叫びながら、風早と頼久の間に両手を広げて割り込んだ。
「っな……!?」
「沙霧っ!?」
「…!いやぁぁっ!」
急に現れた沙霧に、頼久は寸での所で刀を止めようとする。
ビュッと風が吹いたかと思うと、風早がその刀を自分の刀で止めていた。
「何?!速いっ!」
「……ふぅ……」
左腕で沙霧を庇うように前に出して護り、右手で刀を持つ風早は息を吐いた。
震える沙霧に声を掛ける。