第2章 平和の都へ
指をそのまま、ゆっくり立ち上がった風早を、澄んだ翡翠の瞳がじっと見上げた。
風早は神経を集中させ、気配を探る。
さりげなく沙霧を背中に隠す。
よく見ると、今居る部屋は薄暗く静かだ。
灯りもなく、暗闇の中にまだ目が慣れない。
お互いの顔を認識はできるが、物などはまだよくは見えない。
(……どこかの建物のようだが……)
何も喋らない風早に少し不安になる。
(…なんか、いろいろ起きすぎてよくわからない。目の前にいる、この風早、さん…風早っていったい……)
+++
そんな状況の中、物音がしたといわれる部屋の様子を、気配を消しうかがっていた青い髪の青年――源 頼久――が部屋のそばで立っていた。
「(…中に人が?)」
おかしい。
女房達はみな仕事を終え、藤姫が下がらせ床についているはず。
人がいるなら、警護をしていた自分が気づかないはずはない。
しかも、妙な感覚だ…。
(人の気配…だが、なんだ?まさか、鬼?)
浮かんだ単語に、手は腰にある刀へとのびる。
ただの野党や盗賊などなら、倒せる自信はある。
…驕りではない。
それだけの実力を自分は持っている。
ただ、鬼と戦ったことなどない為、神経が高ぶるのだ。
落ち着こうと深呼吸を繰り返して、頼久は一歩踏み出す。
「………よしっ」
(行くぞっ)
+++
――バァアン!!
突然響いた音。
「鬼め!覚悟しろっ!」
「「!!」」
抜くが早いか、頼久が蹴破って室に入ると、中にいた風早と沙霧に斬りかかる。
いきなりの出来事に風早は素早く腰にある刀を抜いた。
真刀と真刀が火花をあげ、ぶつかる。
沙霧は恐怖に目を閉じ、祈るように両手を握り締める。
.