第7章 更木の剣八
名前だけを告げて颯爽と去っていった更木剣八。
暫くの間呆気に取られていた私たちだったが、一角が地面に倒れる音で我に返った。
『あっ…見失っちゃまずい!』
「追いかける?」
私が声を上げると蘭がすかさず聞いてくる。
『もちろん。でもちょっと待ってて』
そう言うと私は倒れていた一角に近寄る弓親に声を掛けた。
『弓親、私たち今からあの人のこと追いかけるんたけど、少しここで待っててくれる?』
「華…どうしてだい?」
『その傷…結構深いでしょ?戻ってきたら治してあげられるから、だから取り敢えず応急処置だけして待っててくれない?』
「一角の傷を治せるのかい?……わかった、ここに居よう」
『ありがとう!じゃあ、行ってくる』
「……気を付けて」
走っていく華の背中にそっと掛けた弓親の言葉を聞いたのは本人だけ。
──同刻
「ったく…胸糞悪ぃ……」
「でも剣ちゃん楽しそうだったね〜!」
そんな会話をしながら二人が更木の街から離れようとしていた時。
『…あの…ちょっといいですか?』
「…っ?!」
突然目の前に現れた女に剣八は酷く驚いていた。
それもそうだろう、声を掛けられるまで誰かが近づいてくる気配にさえ気づけなかったのだから。
「何もんだてめぇ…」
こいつはさっきの男と戦ってた所にいた女…
俺に気配を悟らせないなんて只者じゃねぇ。
にしては、霊圧を全く感じねぇ…どういうことだ?
『突然すみません。実はお願いがあって…』
私の事を値踏みするような視線を向けていた更木さんの目がいっそう鋭くなる。
「…お願い?」
『はい…あの、実は戦いの相手をお願いしたくて!』
「戦いの相手、だと?」