第7章 更木の剣八
その少女の言った通り、戦いが終わりを告げようとしていた。
「楽しかったぜ……久々に遊んだ」
そう言った男の霊圧がまた上がったかと思うと、次の瞬間、一角の刀は綺麗に折られていた。
血を流した一角が地面に倒れる。
あっけない幕切れだった。
「ふぅ……やちる、行くぞ」
「はーい!」
刀を鞘に収め一息ついた男がそう言うと、戦いを大人しく見ていた少女は男の背中に乗った。
私たちがその様子を黙って見ていると、倒れていた一角が身じろぐ気配がした。
「待ち……やが……れ…っ」
一角の声に男が振り向く。
「…何だ。まだ生きてんのか」
「どういう気だてめぇ…!なんでとどめを刺さねぇ…!!てめぇの勝ちだ!殺して行け!!」
「悪いな、戦えなくなった奴に興味は無ぇんだ。わざわざとどめを刺してやる義理もねぇしな」
「ふざけんな…バカにしてんのか!?殺せ!!!」
その叫びに、男はつかつかと一角に近づき一角の服を掴んで持ち上げて言った。
「ふざけんな。てめぇも戦いが好きなら殺せだ何だと喚くんじゃねぇ。負けを認めて死にたがるな!死んで初めて負けを認めろ!」
男の言葉に一角が大きく目を見開く。
「負けてそれでも死に損ねたら、そいつはてめぇがツイてただけのことだ。そん時は生き延びることだけ考えろ!生き延びて、てめぇを殺し損ねた奴を殺すことだけ考えろ」
隣にいた弓親も蘭も男の言葉をじっと聞いていた。
「…俺は手ェ抜いて戦った訳じゃねぇ。死に損ねたのはてめぇの運だ。生きろ。生きて俺をもう一度殺しに来い」
言いたい事を言えた男は一角を離し、くるりと踵を返した。
「じゃあな」
去っていこうとする男に一角が慌てて声をかける。
「…ま…待ってくれ…!!あんた…あんたの名を教えてくれ…!!」
男は少しだけ振り向いて静かに、でもはっきりと名前を告げた。
「剣八。〝更木〟の剣八だ。」