第5章 隠密機動
暫くの静寂の後、一番はじめに我に返り声を発したのは夜一さんだった
「それまでッ!この勝負華の勝ち!」
夜一さんの凛としたよく通る声が試合終了を告げる
私はこの声とともに扇を浦原さんの首元からどけ、元の刀の状態に戻ってもらってから鞘に収めた
刀をしまうと同時に浦原さんを捕らえていた縛道も霊子となって空に消える
「すごーい!お姉ちゃん本当に勝っちゃった!」
蘭のはしゃぐ声を聞いた途端、張り詰めていた気が一気に緩み、私の身体は重力に従って地面に倒れた
そして一言、
『きっつーーーーーーー!!!!!』
私の心からの叫びは森じゅうに響いた
「はっはっはっ!そりゃそうじゃ!全力を出し切った勝負の後、霊力の使い過ぎで身体も思うように動かんはずじゃ!どれ、喜助起こしてやれ!」
夜一さんの言葉に、浦原さんは倒れた私の手をスッと握って上体を起こしてくれた
『あ、ありがとうございます、浦原さん』
私がお礼を言うと、浦原さんは少し複雑そうな顔をしていて、やっぱり負けておくべきだったかななんて考えがよぎる
「……け」
『え?』
そんな浦原さんが何かを言ったが、声が小さくてイマイチ聞き取りにくかったので聞き返す
すると、彼は意を決したような顔をして言った
「喜助でいいっス……」
『………………………は?』
ん?今この人は何といった?喜助でいい、とかなんとか聞こえた気がしたけど…
「だーかーらー!私も夜一さんみたいに下の名ていいって言ってるんスよ!」
半ばやけくそ気味に言い放ったその言葉で、ようやく言いたい事を理解する
「油断していたとはいえ、完敗でス…しかし、一度刃を交えたならそれはもう他人同士ではありません。親しくなるには、名前で呼び合うのが一番っていうでしょ?」
『……浦原さん』
「ほらまた!ダメじゃないスか〜華さん」
彼のさも昔からそう呼んでいたかのような自然さには敬服する
『でも…』
「いいではないか!せっかくこうして出会ったのも何かの縁!親しくなるのは何も悪いことではいぞ!」