第3章 2人っきりの生活
相当怯えているだろうと思い隣の蘭を見ると、蘭は小さな体を震わせながらも
気丈に向かって来る男たちを睨んでいた
(私が守らなきゃ)
それは私の心の中にすとんと
落ちてきた感情だった
その後は一瞬
私は腰にある木刀を掴むと、
あっというまに男たちをなぎ倒した
この時ほど鍛錬を積んでいて
良かったと思ったのは初めてで
気がつくと男たちは地面に伏して
気を失っていた
「す………すごいっっ!!!」
『え、と…何が?』
「だってだって!大人の男の人を倒しちゃったんだよ!!しかも3人!凄いことだよ!!お姉ちゃんってほんとに強いんだねっ!悪い人に立ち向かっていって、ヒーローみたい!!」
興奮したようにまくし立てる蘭
そこに先程までの怯えは欠片もなかった
『………クスッ』
「えぇっ!なんで笑うの!?」
『だってっ…ヒーローってっ…フフ、アハハハハ』
「もー!子ども扱いしないで!!」
『ごめんごめんっ…』
「まだ笑ってるぅー!もうっ!怒ったら余計お腹空いた!!ご飯!」
『そうね!私もお腹ペコペコ!』
お腹が空いたと自覚したので、余計お腹が空いた気がする
私は未だ気絶したままの男たちに近づき、木刀を一本拾い上げた
『はいこれ!蘭のね』
そう言って蘭に木刀を手渡す
「私の……」
蘭は受け取った木刀を小さな手で握りしめた
強くなるという決意と共に
『…………あら?』
その様子を見守っていた華はある事に気付く
『これ……刀…』
男たちのそばに佇むそれは一本の刀
刀なんて持ってたっけ
そんな疑問が浮かぶがさしたる問題ではないとすぐに追いやる
それよりも、自分たちの身を守るすべを僅かしか持たない彼女たちにとって本当の危機に陥った時に使える武器が序盤に手に入ったことは喜ばしい事だった
刀を手に取る
シンプルな作りの鞘に入ったこれまた飾り気の全く無い刀
『これ…使えるっ!!』
華は拾った刀を木刀と一緒に腰にさし進む
彼女たちの生活の滑り出しは実に快調なように思われた
運命の歯車は回り出す
彼女はその刀が死神が初めに持つそれだと気づけなかった
全てが1人の男の掌の上にあるということも