第2章 水面に映る女神様 ~沖田 編~
女の子は咄嗟に立ち止まった。僕の態度を見て、小さく息を吐く。女の子の表情に驚きが含まれていたが、恐怖感などは欠片も見受けられなかった。
年端も行かない女の子が刀を向けられ、怯える素振りすら見られないことに僕は驚いた。そして、更に女の子の行動に驚きを隠せなかった。
女の子はいきなり僕たちに背を向け、歩き出したのだった。慌てて逃げ出す訳でもなく、普通に……。
「ねぇ、何処に行くの?」
女の子の足が止まり、少しだけ振り返った。そして、冷たい視線を僕へと向けてこう言った。
「帰ります。」
まさか、そんな返答が来るとは想像もしなかった。僕に背を向け、背後から襲われるとは思わなかったのだろうか?
「用心するのは大切ですが、無闇に人の好意を掃き捨てるのは感心しません。余計なお世話でしょうが忠告を。その方、毒に犯されています。処置しなければ、死にます。」
「毒……?」
僕たちは唖然とした。それに、死ぬって?近藤さんが……死ぬ?
「先程の非礼を詫びる。俺たちは、自分たちの置かれている立場を理解出来ていない。すまないが、詳しく教えてもらえないだろうか?」
「黒い…………怪物に遭遇しませんでしたか?」
「あぁ、見た。」
「その怪物は、毒を持っています。毒消しは持っていないのですか?…………いないようですね。」
女の子は下げていた入れ物から、何かを取り出した。そして、女の子の手にある小瓶を見て驚愕した。
「それは……何かね?」
「毒消しです。そんなことまで知らないのですか?」
近藤さんの言葉に、女の子は呆れたような顔をした。その言葉から、女の子は嘘をついている様には見受けられない。しかし……。
近藤さんや僕が、女の子の好意を鵜呑みに出来なかったのは女の子の手にある小瓶が原因。そう……小瓶の形は違えど、中の液体の色が赤かったから。
「どういう理由で人の好意を受け取れないか図りかねますが…………死んでも構わないのであればお好きにどうぞ。」
女の子はそう言い放つ。そして……決断をしたのは、近藤さんだった。
「何度も不快な思いをさせてしまい申し訳無い。ありがたく君の好意を受け取りたい。構わないだろうか?」