第1章 本編
自室に戻り、ベッドにふて寝する。
王は今日どんなつもりであんなことをしたんだろう。
本音なのだろうか、それとも酔っていただけなのか。
明日起きたら覚えていない、というのが1番良いんだけれど。
私はマギとして、中庸でいたいのでどの道この国に長居する気は無い。
近いうちに出て行こう。
それにしても、マスルールはいつからあの路地に居たんだろう。
どこから聞かれていたのかな……
ぐるぐると考えているうちに、ふと窓を見ると外は暗くなって宴の喧騒もなくなっていた。
コンコン、と部屋をノックする音が聞こえる。
こんな夜更けに誰だろうと思い、ベッドから抜け出してドアノブを捻る。
現れた人物は意外な人物で、マスルールだった。
「宴の片付けをしてたら遅くなって申し訳ないんですが。
ちょっといいスか?」
立ち話もなんなので、部屋の中に招く。
「この部屋、狭くてごめんね」
寝台と、1人用のテーブルとソファだけの簡素な部屋。
仕方ないので私はベッドの縁に腰掛けて、マスルールにソファを勧めた。
「もっと大きい部屋もあるんで、ジャーファルさんに頼んでおきましょうか?」
「いいの、近いうちに出て行くつもりですから」
それを聞いた彼の表情が少しだけ驚きを含んだものになった。
「さっき、シンさんとは出て行く話をしてたんスか?」
珍しく質問を投げかけてくる彼に驚いた。
という事は、さっきの王との出来事は最初から聞いていたわけではなさそうだ。
「そういう訳じゃないけど」
「きっと、シンさんでも名無しさんの事を引き止めると思います。
俺も、名無しさんには行って欲しくありません」
「そうだね、私はマギだから」
どうせ、とため息をつきながら自嘲気味に呟く。
「俺は……シンさんとは違います。
名無しさんが好きで、マギとかそうでないとか関係ありません。
名無しさん自身が好きなんス」
マスルールには珍しく、語気を強めて語り出した。
「だから……俺を置いて行かないで下さい」