第1章 本編
「はは、無粋だな」
そう呟くと、彼は拘束を解いてくれて私は壁から解放された。
「2人もマギを匿うなんて、王は我が儘でいらっしゃる」
そう、いつも彼は自分の欲望に忠実だ。
そして、大きな力で欲しいものを手中に収めていく。
「俺は君が欲しいだけだよ」
きっと私も、彼の集める金、宝石、女や財宝のなかの1つに過ぎないのだ。
私はうんざりした。
「私が女でなければ貴方を選んでいたかもしれませんね、ジュダルみたいに」
「どういうことだ」
「貴方が誰も選ばないのに、誰かに選ばれようなんて勝手ですよ」
私がそこまで言うと、魔力の減少からか彼は地面にへたり込んで、酒のせいか眠り始めてしまった。
「とんでもないバカ殿ですね…」
嘆息する同時に、このバカ殿をどうやって送り届けるかを考えなければいけない。
杖に載せて運ぶしかないか。魔力の無駄遣いだけど。
すると、足音が聞こえ顔を上げると身の丈が常人以上の、こういう時に頼りになる男が目の前に現れた。
「何してるんすか」
「マスルール、良いところに!」
彼は訝しげに地面で眠っている王を確認すると、慣れているとばかりにひょいと持ち上げた。
「よく分からないっすけど、シンさんがご迷惑おかけしました」
言うが早いかずんずんと進んでいき、ついに彼らの姿が見えなくなった。
遠くではまだ宴の喧騒が響いていた。