• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第6章  だから俺だけをずっと (R18:及川徹)



 徹くんは、私がどこかへ行くことを極端に嫌う。

 同棲をはじめた当初はそれこそ、こうしてコンビニに行こうとするだけで泣かれたくらいだ。

 ひとりにしないで。

 彼はそう呟いて、俯いていた。

 スラリと高い背も、花のように美しい面立ちも、そのときだけは小さな子どものように幼気(いたいけ)で。

 それがどうしようもなく愛おしくて。悲しくて。私も一緒になって泣いていたことを、よく覚えてる。



「……行かないで、カオリ」



 口付けの合間に彼がねだった。

 不安げな声音。
 すがるような吐息。

 私の両頬をわずかに震える手で包みこんで、絶対に離すまいと切なげなキスをする。

 不安定で、儚げな、徹くんのキスだ。


「……っ行か、ない、よ」

「本当に? どこも行かない?」

「ん、どこにも、行かない」


 泣くまではしなくなったけど、彼はまだ過去の傷に囚われている。そしてそれは、これからもずっと。

 簡単に癒える傷なんてない。

 ついてしまった傷痕は、一生消えない。

 だから私たちは寄り添う。
 だから私たちは愛し合う。

 互いの傷に、寄り添うようにして。
 互いの愛を、補い合うようにして。


「愛してるよ、……徹くん」

「……俺のほうが絶対愛してるもん」

「ふふ……、そう?」


 やっと普段の調子を取り戻してくれた彼の、その少し赤くなった頬を撫でて、私は笑った。

 眠らぬ町の、片隅。
 華やいだ雑踏のざわめきが遠くに聞こえる。騒がしくも、静かな夜。

 私と彼が出会ってからちょうど一年が経った、──とある幸せの瞬間だった。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp