第6章 だから俺だけをずっと (R18:及川徹)
やがて誰も喋らなくなった。
宴の余韻だけを残して。
しん、と空気が押し黙る。
静かだなあ。
漠然とそう思った。
「……よっこらしょ、っと」
静寂のなか、席を立つ。
女性客用に準備されていたブランケットを一枚、また一枚と、夢のなかにいる彼らに掛けていった。
全員に温もりが行き渡ったのを確認して、それから、そっとお店を出る。
コンビニに行こうと思ったのだ。
数時間後にやってくる朝。
二日酔いに苦しみあえぐ彼らが水を求める姿が目に浮かぶようだし、実は私もすこし酔っていた。
酔いざましがてらのお買物。
そのつもりだったのだが──
「──……どこ行くの?」
地上へと、続く階段。
その一段目に足をかけたところで、後ろから抱きすくめられる。溶けた砂糖のような声。
甘い。徹くんの声。
「徹くん……起きてたの?」
「俺を誰だと思ってるのサ」
「……元夜王のトオル」
「そう、そういうこと」
私は、まんまと騙されたらしい。
彼はこれっぽっちも酔っていなかったのだ。潰れたふりをして、二人きりになる好機を窺っていただけ。
かつてこの町で一番ボトルを空けていたのが彼なのだから、それもそうかと妙に納得する。
「それで、どこ行こうとしてたの?」
改めて問うた彼の、ブランデーを孕んだ呼気。私の耳を、熱く撫でつける。