第6章 だから俺だけをずっと (R18:及川徹)
そしてこの有様である。
「ダハハハハ! 脱げー!」
「ちょっ、……やめてよクロ」
「けーじィ! 酒おかわり!!!」
「光太郎くん声も顔もうるさい」
「ね~メガネくんって童貞~?」
「アンタの彼女の元客ですよ僕」
お分かりいただけるだろうか。
この有様である。
「……これがカオスか」
数分前までの感動的なお話はどこへやら。乾杯を終えた彼らは信じられない勢いでボトルを空け、騒ぎ、笑う。
さすがこの町の人間だ。
江戸の花が喧嘩と祭りなら、ここ一番街の花は色恋とパーティだろうか。とんだパーリーピーポーの集まりである。
「見てるだけで酔いそうだよな」
トス、と隣に腰かけた岩泉さん。
そういう彼も相当飲んでいるはずなのだが、顔色はシラフそのものだ。さすが元ホスト店幹部である。
「なあ、カオリ」
「はい、岩泉さん」
「出会えてよかったな、俺たち」
ウイスキーグラスに注がれた琥珀色を傾けて、彼はその唇を濡らした。
熱い、──視線。
見つめられると目が離せなくなるほど真っ直ぐな、岩泉さんの眼差しだ。
やけに熱っぽく私を見つめる彼が、ふにゃり、突然笑みを作って私に抱きついてくる。抱きついてくる?
あの岩泉さんが?
「う、ぎゃー! コラ、岩ちゃん!」
「んだよ徹ー、邪魔すんなよー……なあカオリ、俺とイイコトしようぜ……?」
「ちょ、誰岩ちゃんに酒飲ませたの!」
岩泉さんが超下戸で、お店ではウーロンハイ(アルコール抜き)でやり過ごしていたと私が知ったのは、彼が潰れたあとのことだった。