第1章 キミは宇宙の音がする (R18:灰羽リエーフ)
「だって俺、離れたくない」
「……リエーフ」
「いやです、絶対、……嫌だ」
私は拒もうとはしなかった。
息を切らした彼が音楽室に踏み入ってきても、気まずさのあまり逃げ出そうとした腕を引き止められても、その逞しい腕のなかに抱きすくめられても。
私は拒まなかった。拒めなかった。
「どうして……、なんで、何も言ってくれなかったんですか」
開かれたままの楽譜。
月明かりに照らされたそれを見つめて、ぽそり、言葉を落とす。
「……ごめんなさい」
情けないほど震えた声だった。
私の声に負けないくらい彼の腕も震えているけれど、それが怒りからくるのか、悲しみからくるのか、私には窺い知ることができない。
「……絢香さん」
耳元に、なにかが触れた。
それは、紛れもなく彼の唇だった。
「ねえ絢香さん」
「…………」
「俺のこと、好き?」
リエーフは縋りよるような仕草で唇を寄せて、低く、甘く、問いかける。直に滑りこんでくる吐息のせいで頬が熱い。どうしようもなく、熱い。