第6章 だから俺だけをずっと (R18:及川徹)
嘘みたいな光景だった。
花のように見目麗しいかつての夜王、及川徹。
その後ろから現れた岩泉さんは、徹くんに勝るとも劣らない大輪の花を、──カラーローズの花束を抱えている。
「……岩泉、さ、ん」
誰も、何も言わなかった。
私と岩泉さんの間に起こったこと。岩泉さんと徹くんの関係。その深い悲しみ。思い起こされる悪夢。
ここに集うた彼らは皆、すべてを知っているから。
「さっさと退け、徹」
「んもーそうやってすぐ蹴るう」
ぶうぶう文句を垂れている徹くんを押しのけて、一歩。静寂の店内へと足を踏みいれた岩泉さんの視線が、ふと、私を捕らえた。
「──……カオリ」
世界が止まる。
息が止まる。
呼吸の仕方さえ忘れて見つめあう私たちを、周囲にいる彼らもまた息を殺して見つめていた。
「少し老けたか? お前」
「……っへ!?」
「はは、冗談だ、冗談」
嘘だろ岩泉くん。
このタイミングでそれかよ。
岩ちゃん最低。
場を和ませようとしたんデショ。
それにしても今のは酷い。
各々がそれぞれの「やっちまったな岩泉」を思い浮かべる。私の反応を窺う視線がチクチクと痛い。そんな目で私を見ないでほしい。
「あれ、なんかマズいこと言っ……たな、俺」
すまん。
そう言って岩泉さんがガバリと頭を下げるから、大きな大きな花束が徹くんの目にぶつかって──「目が!及川さんの美しい目がああ!」──みんなが同時に吹き出した。