第6章 だから俺だけをずっと (R18:及川徹)
それにしても、と考える。
徹くんはまだだろうか。
今朝、目を覚ますと彼の姿がなかった。ベッドの右側。彼がいるはずの場所に置かれていたのは、短い手紙だった。
【ここに電話して!】
本人の姿は見えないけれど、それはたしかに徹くんの字で書かれていた。
03から始まる番号。
見覚えはない。
何事かと訝りながらもダイアルを回してみると、電話口から聞こえたのは京治さんの声だった。
『……バースデーパーティ、私の?』
『トオルから聞いてないの』
『え、ええ、なにも……というか』
私には、誕生日がないのに。
いや、正確にいえば知らないのだ。
物心ついた頃から不仲だった両親。家に寄りつかない父。酒と男浸りの母。彼らに誕生日を祝ってもらったことなんて、一度もなかったから。
でも、こんなのスラムで育った者にとっては珍しくもなんともない。
徹くんも自分の本当の誕生日を知らないと言っていたし、スラムの生まれではないけれど光太郎は「俺も知らねえ! 俺、施設育ちだから!」と言っていた。
誰もが当たり前にもっている誕生日をもたない私たち。大抵は自分で勝手に決めるか、周囲が決めてくれる。
徹くんは、この町で働きはじめた日。
光太郎は、毎月29日になると祝えと騒ぐ。──肉の日だから。
私は、そういえば決めていなかった。
この町では誕生日なんてなくても生きていけるし、本名すらあってないようなものなのだ。だから、今まで全く気にしたことがなかったのだけれど。