第6章 だから俺だけをずっと (R18:及川徹)
優しい時間が流れていく。
グラスに注がれるのはモヒート。
京治さんがマドラーをくるりと回せば、青々しく色付いたミントが心地よさそうに浮上する。
店内に響くのはカラコロという氷音と、時折交わす会話だけ。
「元気だった?」
「……はい、……京治さんは?」
「お前がいなくて寂しかった」
え──
思わず硬直してしまって、数秒。
カウンターの向こうにいる京治さんを見つめるけど、彼は手元に目を落としたまま顔を上げてくれない。
「──って、言ってほしい?」
コトン、と置かれたグラス。
緑鮮やかなロングドリンク。
それから、ぶつかる視線。
したり顔の京治さんに悪戯っぽく笑われて、金魚みたいに口がパクパクなった。おまけに頰まで赤くなってしまったものだから、私はいま金魚そのものである。悔しい。
「アカウオみたい、顔」
「せめてトマトと言ってください!」
「金目鯛でもいいよ」
「〜〜〜! もう知らない!」
私はガバァッとカウンターに突っ伏して拗ねた。拗ねた振りをして、こぼれそうになった涙を隠した。
またこんな風に話せる日が来るなんて、夢にも思わなかったから、うれしくて。