第5章 吐息を華に、恨みを添えて (R18:澤村大地)
どこへ発散したらよいのかも分からず、溜まり続けた感情。行き場をなくしていた筈のそれが、いま、張力を失った水のように溢れだす。
あなたには、奥さんがいる。
それでもあなたは、私を抱く。
そんなあなたを、私は──
「愛してるのは、……私のほう。いつだって、どこにいたって、あなたを想わない日はなかった……っ」
「……絢香、」
「でもそれは私だけ……あなたはいつだって私を、……っ私のもとを離れて、彼女のところへ帰っていく……! もう辛いの、限界なの! だからもう」
「絢香!」
ピシャリと名を呼ばれて、彼を見た。困っているのに嬉しそうな、複雑な笑顔だった。
突然視界が塞がれる。
額にあたるのは、彼の胸板だ。
きつく、優しく。
私を包みこむ彼の腕。
「……なあ、それ本当か?」
「あなたに嘘なんて、……つかない」
「じゃあ終わりにしたいってのは?」
「…………それは嘘」
彼の胸が大きく上下した。
魂ごと抜けてしまいそうな深呼吸。心底安堵したような、ため息。
「俺のこと、遊びじゃなかったのか」
「……私、そんなに器用じゃないです」
「そ、っか……そうだよな、うん」
ふ、と離れる体温。
抱擁をやめて私を見つめる彼は、大地さんは、ニッと微笑んで膝を折った。
「───……?」
左手が、そっとすくい取られる。