第5章 吐息を華に、恨みを添えて (R18:澤村大地)
「どうして離れていこうとするんだ」
彼が、やっと口を開いた。
私には、その真意が理解できなかった。
「ど、して……って、それは……あなたが一番よく分かってることでしょう……!?」
思わず言葉尻が荒くなる。
粛々とあがっていくエレベーターの回数表示。12、13、14……彼はこちらを見つめたまま悲しそうな顔をして、それから素っ頓狂なことを口にした。
「この関係は絢香にとって、簡単に終わらせられるようなものなのか……?」
「──……え、」
「俺は、お前にとって、……その程度の男だったんだな」
昇りつめた先は15階。
ごう、と開いた扉の前で、配膳係のホテルマンが怪訝そうにこちらを見ていた。
そのことに気付いた彼は途端に【澤村課長】の顔に戻って、愛想のよさそうな、それでいて闇を抱えたような笑顔を浮かべている。
「なにかお困りのことがあれば、何なりとお申し付けください」
ホテルマンの営業スマイルが、閉まる扉の向こうに、消えていく。
「来い」
「……っ、」
扉がすべて閉まりきった瞬間だった。
またも強引に私の手を掴んだ彼は、足早に廊下を進んでいく。毛足のながい絨毯にヒールをとられて、足がもつれそうになる。
1508という数字の刻印。
金メッキで覆われたドアハンドルを乱暴にひねって、彼は、私を部屋のなかへと引きずりこんだ。