第5章 吐息を華に、恨みを添えて (R18:澤村大地)
人魚姫の結末を知っていますか。
以前、事後の熱気がこもる資料室でそう聞いたら、あなたは真面目な顔をしてこう答えた。
『お姫さまと王子が結婚、だろ?』
なんて、純朴な。
世界一有名なアニメーション会社が広めたほうの結末しか知らない。ハッピーエンドしか知らない。
現実は、もっと残酷なのに。
『本当の結末は、……いえ、何でもありません。もう戻ります』
ねえ大地さん。
本当の結末を知ったら、あなたはどんな顔をするだろう。どんな顔をして、何を言うのだろう。
深海で歌をうたう人魚姫。
彼女は、悪魔と契約してまで王子と心通わせたのに彼女は、結局結ばれずに泡となって消えた。
王子を殺せば、泡にならずに済んだのに。愛した彼のために自分を犠牲にして、──この世から消えたのよ。
「…………何、これ」
私のデスクにあるパソコンの前。
会議用にまとめられた書類ファイルのなかに、小さなメモ用紙を見つけた。
【今日21時 KY'sに来い】
キース、ホテルの名前。
新幹線が発着する駅に隣接したビジネスホテル。朝早いから前乗りする、とでも奥さんに理由立てしたのだろうか。
どうして、こんなことするの。
私の想いを知ってるでしょう。
なら私の苦しみも分かってくれてもいいじゃない。どうして。どうしてよ。
「……どうして、また」
期待させるようなこと、するの。