第5章 吐息を華に、恨みを添えて (R18:澤村大地)
「は、っあ……すご、」
「……いっぱい出た?」
「ん、すげえたくさん出てる」
すげえ、だって。
部下たちが聞いたらどう思うだろう。
とくに、彼を狙っている女性社員たちが、男の顔をした【澤村課長】を見たらどう思うかしら。
ぞくり、優越感で脳が痺れる。
いまだ情事の余韻にひたる彼。
澤村大地さん。
総勢12名の新規チームをまとめるプロジェクトリーダーで、私たちが属するスポーツドリンク開発部の課長。
私の、──愛しいひと。
「ねえ、大地さ、……澤村さん」
「大地でいいのに」
いまは二人きりなんだから。
そう言って彼は、私の髪をひと房手にとった。嬉しそうな顔。久しぶりのセックスだったから、喜びも一塩なのだろうか。
笑顔、だなんて。
そんなの見たくないのに。
だって期待しちゃうでしょう。
もしかしたら今日こそ、もしかしたら今度こそ、彼の恋人になれるんじゃないかって。
でもそんなの幻想、よね、やっぱり。
「……そろそろ戻りましょう」
「もうそんな時間か?」
「ええ、じきに13時です」
解けてしまったブラウスのリボンを結びなおし、彼に剥ぎとられたストッキングを履きなおして、最後にメガネをかける。
これが私。
偽りの私。
荒狂う情念をこころの奥底に隠して、私は今日も、彼を呼ぶ。「澤村さん」と、たっぷりの皮肉をこめて。