第4章 愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)
俺は、あいつじゃないから。
俺は、お前を笑顔にはできないから。
『じゃあ奪ってやるよ、全部』
俺は、奪うことしかできない。
俺は、お前を幸せにはできない。
「………て、………るよ」
まるで化物でも見るかのような、お前の目。怯えてわななく、その唇。華奢な手足。震える躰。
木兎に捧げた、心ごと──
「全部奪って、ブッ壊してやる」
絢香が何かを言おうとしたが、その呼吸すら奪って、俺は自分の唇を彼女に押しつけた。甘い。リップグロスの香り。木兎の好きな柑橘系の味。
ギリ、と奥歯が鳴る。
乱暴にバスローブを脱がして、その下にある柔肌を手のひらで弄った。
乳房を五指で掴んで、握力をこめる。絢香が短い悲鳴を漏らす。痛い、怖い、黒々とした瞳がそう訴えかけてくる。
「お前、知ってた?」
「……っ、……?」
「俺が男だってこと」
分からせてやるよ。
俺がいまどんな思いでいるか。
俺がどれだけお前を好きか。
俺の、──痛みを。