第4章 愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)
シャワーを終えて部屋に戻ると、パイル生地のバスローブを着た絢香がみえた。ベッドの端っこに小さくなって座っている。
「……だれ尾鉄朗?」
「髪ペタ尾鉄朗」
「ぷっ、いいねそれ」
この雰囲気にも慣れたらしい。
教室にいるときと変わらない声音で、楽しそうに冗談をいう笑顔。今から何するか分かってんのか、こいつ。
濡れた髪もそのままにソファに腰かけて、のんきに笑っている絢香を見やった。
細っせえ脚。
バスローブの裾から覗くそれは目眩がするほど細く、ちょっと力をこめれば折れるんじゃないかと考える。
それもいいかもしれない。
そうすれば、逃げられないし。
わりと本気で猟奇的なことを考えてしまった自分に嫌気がさして、観もしないテレビの電源をつけた。
「…………なに?」
ふと、視線を感じた。
なんかすげえ見られてる。
それは明らかに俺の腹部に向けられているのだけれど、あえて気付かないフリをした。
上半身裸でデニムしか身につけていない俺、を、めちゃくちゃ見てるアホ面がひとり。
「黒尾……腹筋やばい、すごい」
「見んな痴女犯すぞ」
「お、おかっ……!?」
「つーか限界、俺そっち行くから」
俺が立ちあがって、絢香が硬直して。
──シャリッと食感リニューアル!
ただそこで光っているだけのテレビからは、間の抜けたCMソングが流れている。