第4章 愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)
クロって奥手。顔のワリに。
これはいつしかの研磨の台詞。
顔のワリにってどういう意味だ、とは思ったけど、奥手なのはたしかにそうだった。
まあ、ただ臆病なだけなんだけど。
「……私、悔し、……っ」
「そりゃ悔しいわな」
「マジ、むかつく……っ!」
「そんだけ好きな証拠ダロ」
好きだから嬉しいし、好きだから悲しい。その想いが大きければ大きいほど失うのが怖いし、裏切られたらムカつくんだ。
好きって難しい、と思う。
「まあ、でも、さすがに浮気はよくねえな。あいつ常習犯だし。僕、そろそろ本気で説教してやろうと思います」
あくまでスマホから目を離さずに話した。絢香の目を見る勇気がなかった。
泣いてるくせに怒ってる彼女は、今度はちょっと微笑んでみせて「黒尾って頼りになるね」とふざけたことを言う。
「私、……黒尾みたいな人と付き合えばよかったな」
ぴた、と止まる世界。
ぐずぐずと鼻をすする彼女を視界の端でとらえて、小さく息を吸った。遊んでるフリをしてたパズルアプリの画面には、ゲームオーバーの文字。
「じゃあ奪ってやるよ、全部」
友達ごっこは、もうおしまい。