第4章 愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)
ありきたりだろうか。
うちの高校で行われた梟谷グループの練習試合。冷やかしにくる学友たち。男子は可愛いマネを見つけては奮起し、女子は他校のイケメンに歓喜する。
あの日もそうだった。
『木兎お、舞台側のギャラリーのね、右から二番目の子が木兎のことかっこいいって言ってたよ』
『マージー? どこ、どの子!?』
『ほら、あれ、あの子だよ。いま黒尾くんと喋ってる子』
右から二番目。
俺と喋ってる子。
ずっと、俺が好きだった子。
そんな俺の気持ちなんか知るはずもないあいつは、木兎は、俺の目の前で絢香に連絡先を聞いた。
いや──
『くーろーお、あの子紹介して!』
『……、は……?』
『あの子俺のことかっこいい、ってさ、言ってたらしいじゃん! だから紹介して!』
あいつは、あろうことか俺に紹介させたのだ。
ずっと好きだった。
一年生のとき同じクラスになってからずっと、ずっとあいつのことばかり見てた。なのに。
『黒尾マジ神……! 木兎くんとラインできるなんて、私、夢みたい……ありがとう!』
大切なものが、音もなく、
──かすめ獲られていく。