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(R18) 行かないで青春 (HQ)

第4章  愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)



 *


「は……? 木兎に浮気された?」


 カラン、と氷が音を立てた。

 突然呼び出された夜のファミレス。俺の向かいに座るこいつ、瀬野絢香は、悲壮な面持ちでそう言った。

 光太郎が浮気した、と。

 目に涙まで溜めて。


「だれ」

「……え?」

「相手」


 スマホを弄りながら、おざなりに問いかける。本当はまったく心中穏やかじゃないが、それをこいつに気取られるワケにはいかない。

 だって、俺はただの友達だから。

 そう思ってるのはこいつだけだけど、まあ、正直言うとこの関係にも慣れてしまった。

 俺はただのクラスメイト。
 俺はただの相談相手。

 俺は、ただそれだけの存在。


「……チアガール」

「どこの」

「……井闥山、の」


 今にも溢れだしそうな涙をこらえて、絢香は唇を噛みしめていた。強張った肩。俺からは見えないけど、きっと、テーブルの下で拳を握りしめているのだろう。


「あーらら、泣いちゃう?」

「……泣かない」

「だから言ったろ、俺。木兎はやめとけって。あいつああ見えてスゲーモテるし、馬鹿だし、来るもの拒まずだし。所詮お前もその内のひとりだっ」

「……っもうそれ以上言わないで」


 あ、泣いた。

 なんで泣くかな。いや俺が悪いのか。チッ、と思わず口の奥のほうで舌が鳴る。ほろほろと落ちる絢香の涙。その涙を、俺は拭ってやれる立場じゃない。

 募っていくイライラと、歪な感情。

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