第4章 愛すべき泥濘で口付けを (R18:黒尾鉄朗)
「今更やめるっつっても、もう遅えぞ」
これは、俺なりの最終警告だった。
国道を一本それた裏路地。
キャバクラとピンパブがひしめくエリアを抜けると、線路沿いには無数のラブホテルが競うようにして軒を連ねている。
【休憩3900円~】
そう書かれた看板の前。
空室ありを示す緑色のパトランプに照らされて、お前はこくりと頷いた。
「あ、そう」
さも興味なさげに告げる。
べつに俺はどっちでもいいけど、と付け加えて、かすかに震えるその腕を掴んだ。
お前は、何も知らない。
俺が、いまどんな気持ちでいるか。
俺が、どれだけお前を好きか。
何にも知らないから。知らないくせに、こうやって俺と会ったりするから。だからこうなる。
──分からせてやるよ。
アジア風の装飾が施されたホテル内。やたら冷房の効いたエレベーターのなかで、俺はある種の覚悟を決めた。