第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
鮮やかな青と白のコントラストが第一ターミナルに滑り込んだ。
爽やかな配達員さんに化けていた彼らだったが、佐久早逮捕の報らせを受けた今となってはそれも必要ない。
利用客がまばらな夜の空港。
本日分の離陸便が残りひとつとなった出発ロビーに、複数の足音が響く。
「俺、空港ってはじめて来た!」
「……あのね、お前、声でかい」
瞳をキラキラさせているのはもちろん光太郎で、その隣を終始呆れ顔の花巻くんが歩いている。
呑気なもんだ、全く。
溜息がちに独りごちる岩泉さんの声は、ほんのちょっぴり悲しげで。
縦に長く長く、どこまでも伸びるロビーを歩く。歩く。歩く。
徐々に見えてくる搭乗口。
国際線NH6673便と書かれた電光掲示板の下、ゲートカウンターの前で客室乗務員が笑顔を浮かべている。
「──……俺たちはここまでだ」
岩泉さんが、その歩みを止めた。
「向こう行っても元気でな」
次に花巻くんが立ち止まって。
「めちゃくちゃ幸せになれよ!」
最後に光太郎が別れを告げる。
泣かない、って、決めたのに。
涙が邪魔をしてゲートが潜れない。足が動こうとしない。チケットを確認している客室乗務員が、怪訝そうな面持ちになる。
トン、と背を押されて。
ばいばい、カオリ。
光太郎の声が聞こえた。
慌てて振り返るともうそこには誰もいなくて。広大なターミナル。がらんとした景色。
──……ありがとう、皆。
「……っ、……ばいばい」
眦からあたたかい滴。
ほろほろと零れて、止めどなく。