第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
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蛍くんを中心とした一番街の騒動が落ちつきを見せはじめた頃。
かつての劇場跡地に待機していた私たち第一班は、静かに走り出した。
夜闇のなかを、タイヤが滑る。
研磨率いる第二班が向かった道とは反対方面へ。
目指すは幾千の葉に隠された空港だ。国際線の発着を主とする空の玄関口。
そこで、彼が待っている。
ガタゴト
ガタゴト
青い荷台を揺らす振動は絶え間なく。それはいつしか心地良いリズムとなって私たちの背を叩く。
まるで、子守唄のような。
「……んん、もう、食えねえよ」
隣であぐらを掻いたまま居眠りする銀メッシュ。どうせお肉の夢でも見ているのだろう。
こんなときによく寝れるわね。
苦笑ぎみに漏らしてその鼻先を小突くと「っふが!?」だなんて。
光太郎が大きな声で驚くものだから、敵襲と勘違いした岩泉さんが臨戦態勢バッチリで小窓を開け放った。
「カオリ! 大丈夫か!?」
「っあ、いえ、その、」
「だからもう食えねえの!」
「───………は?」
ことの次第を知った彼、元人気ホスト店幹部にして教育係でもあった岩泉さんがブチ切れたことは言うまでもなく。
「眠りこけてんじゃねええ!」
「ぎゃー!ごめんなさーい!」
その光景を横目で見ていた彼、運転手役の花巻くんが呆れて嘆息したこともまた、言うまでもない事実なのである。
「……及川がいなくても結局怒鳴ってばっかなのな、お前」
ガタゴト
ガタゴト
揺らり揺られて、道の先。
目的地はすぐそこだ。