第20章 最愛(Moulin Rouge完結篇)
未来へと繋がるボーディング・ブリッジを、ひとり、鼻を啜りながら歩いた。
ぱらぱらと人影。
他の乗客に混ざって飛行機に乗りこみ、キャビンアテンダントの営業スマイルに会釈を返す。
一歩、踏み出して。
すぐに彼を見つけた。
向かって左側の五列目。頬杖をついて窓の外を見やる横顔。その涼しげな目元。間違いない。
見間違えるはずがない。
「──……京治さん」
数年振りに呼ぶ彼の名前。
語尾に、疑問符を付けて。
私の問いかけに弾かれたように、それでいて、ゆっくりと視線を動かす彼。
京治さんが私を見て。
視線がぶつかって。
それから、それから──
「…………っ、!」
彼は何も言わずに私を抱き締めた。きつく。きつく。息ができないくらい。
感じる彼の体温。
感じる彼の香り。
感じる彼の鼓動。
ああ、──本当に会えた。
本当に本当に、京治さんだ。
私の愛した人がここにいる。
もうどこにも行かないで。
絶対に離れていかないで。
彼の背中に回した手。強く。強く。二度とこの手からこぼれてしまわないようにと、幸せを抱き留める。
「──……会いたかった」
彼が溢したのは、涙混じりの。
何を言おう。
何から話そう。
何て囁こう。
話したいことばかりなの。聞きたいこともたくさんある。語らいたいこと、伝えたいこと、あなたと交わしたい言葉。
たくさん、たくさんあるけれど。
今は、これしか思い浮かばなくて。
「「愛してる」」
今でも、これからも、ずっと。
二人一緒に囁いた愛が重なって、それがなんだかおかしくて。
私たちは、同時に笑った。
【holy war】fin.
飛べ、希望の大空へ